008
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「きわ」や「ふち」や「はし」に身を置いて思いをめぐらすさいには、「いまここ」にはその取っ掛かりがないだけに取り敢えず何かに取り掛かる必要がある。
取り掛かる、とっかかる、寄り掛かる、よっかかる
「ない」のだから捏造する必要がある。
欠く、掻く、描く、書く
ないから、藻掻く、思い描く、書く。「ない」からでっちあげるしか「ない」。
すると、かける。
欠ける、掛ける、駆ける、賭ける、架ける、書ける
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私の場合には、言葉と文字を転がすことで取っ掛かりをこしらえる。言葉(音)と文字(形)を思い浮かべたり思い出したり思い描いたりしながら、「きわ」や「ふち」や「はし」という言葉と文字で浮んでいた「何か」を呼び出したり呼び覚ましたり、掬い取ろうと努める。
「正しい」「正しくない」にはこだわらないので、正解は求めない。自分にとっての原点である「似ている」を頼りに、ああだこうだ、ああでもないこうでもないを繰り返し、迂回をつづける。
気取って言えば、連想にうながされる。ぶっちゃけた話が、でまかせでこじつける。
できることなら、言葉と文字に導かれたい。言葉の音と声に耳を傾け、文字の顔と表情に目を注いでいたい。
はなつのではなく、はなたれる。かくのではなく、かかされる。
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言葉を掛けることは、取っ掛かりのない「いま」「ここ」を「ふち」や「きわ」や「はし」に転じて、そこに浮んでくる音と形を取り敢えず取っ掛かりにして「かける」こと。
かける、欠ける、掛ける、懸ける、駆ける、賭ける、架ける、描ける、書ける
きわできわまり、ふちでふちをのぞきこみ、はしにはしをかける。とりあえずとっかかる。かけるにかける。
枝に引っ掛かって、ゆらゆらゆれる。藻にからんで、もがく。何かを特定せず、ふらふらふれる。保留し宙吊りになって、たゆたう。
サスペンション、懸架、浮遊、suspense、サスペンス、suspend、サスペンダー、pendant、ペンダント、pending、ペンディング、pendulum、振り子、swing、スイング、hang、ハングライダー。
宙吊り、蓑虫、蜘蛛の巣、垂れた糸、ぶらんこ、風鈴、風に吹かれて……、ひゅうひゅう、風まかせ、ぶらぶら、ぶれる、ふれる、振れる、狂れる。