2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

書き手の癖、読み手の癖

このところ吉田修一の小説を読みかえしているのですが、再読するのはぞくぞくするからです。わくわくよりぞくぞくです。 どんなところにぞくぞくするのかと言うと、吉田の諸作品に繰りかえし出てくる動作とか場面なのです。複数の作品に共通して見られる身振…

His/Her Song―洋楽と邦楽における性差

Killing Me Softly with His/Her Song You've Got a Friend なみだの操 サン・トワ・マミー We Don't Talk Anymore Start of Something New 或る日突然 ヘイ・ポーラ 木綿のハンカチーフ Jolene Killing Me Softly Killing Me Softly with His/Her Song この…

プライベートな場所、プライベートな部分

他人の家に入るとわくわくするとか、どきどきすることがありませんか? よその家に足を踏み入れた瞬間に、その家独特の匂いがしたり、自分の住まいとは違う湿度を感じたり、何か見てはいけないものと出会う予感がしてどぎまぎすることがないでしょうか。 私…

トイレ同盟

この歳になってようやく人に言えることがいくつかあります。人と会う機会が極端に少ない生活を送っているので面と向かって話すのではありませんが、こうやってネット上で記事にようやく書けるようになったことがあるのです。 とはいえ、やっぱり恥ずかしいの…

Lに魅せられた作家

アート・ガーファンクルの口 SML(そしてH) ナボコフについて 口は楽器である Lの誘惑 アート・ガーファンクルの口 アート・ガーファンクルは歌う時に大きな口を開けます。そもそも口が大きい人なのに、舌の動きまでがよく分かるほど大きく開けるので…

読みやすい文章、読みにくい文章

黙読しやすい文章 速読しやすい文章 読みやすい文章、読みにくい文章 すごい人たち 長いけど読みやすい文章 耳に入りやすい文章 最後に 黙読しやすい文章 漢字が適度に使われている文章は黙読しやすい気がします。読むというよりも、見て瞬間的に意味を取る…

私たちはドン・キホーテとボヴァリー夫人を笑えるでしょうか?

声に恋して悪いでしょうか。言葉に恋することなど、古今東西で行われてきた人のいとなみではないでしょうか。人が、声や書かれた文章(言葉)や、映像で見た表情や身振りや仕草に恋することなんて、ざらにあります。 私たちは、現実とフィクションと幻想を混…

一人でいるべき場所

このところ、夜になるとやって来る女性がいます。枕元に立つのです。顔はよく見えないのですけど。というのは、半分冗談です。神仏のたぐいは信じていませんし、超常現象とか神秘体験みたいなことはほとんど無縁で生きてきました。でも、半分冗談ですから、…

視覚は体感を裏切り、裏切るという形で体を導いている

パソコンではマウスやフラットポイントを手や指や腕をつかって動かし、スマホでは指を画面にすべらせる。基本的には円を描く動きが多い気がします。というか、指を走らせて何かをえんえんと回しているのです。 ゲームでは指でコントローラーをいじっているよ…

目まいのする読書

目まいのする読書 20年で変わる社会と言葉遣い 言葉はつねに過渡期にある 対訳で読み、日本語を鍛える 「似ている」→「似る・似せる・真似る」→「なりきる」→「なりかわる」 目まいのする読書 目の前に三冊の本を置いて、同時には無理ですから、それぞれをつ…

樹影、言影、幻影

かげ、影、陰 言葉のかたち 記憶の風景、記憶のかたち 写生と描写 描写、なぞる 言葉の影、言葉というまぼろし 複写、複製、印影、拡散 外にある線をなぞる かげ、影、陰 かげという言葉が好きです。「かげ、カゲ、影、陰、蔭、翳、景」という字面をみている…

有名は無数、無名は有数

有名は有数、無名は無数。 有数の有名、つまりたくさんあるわけではない有名な名前の力はきわめて強大であり、無数にある無名、つまり星の数ほどある無名の名前が束になって掛かってもかなわないのです。 (拙文「有名は有数、無名は無数」より) renrenhosh…

有名は有数、無名は無数

”水が来た。” 「これは森鴎外作『寒山拾得』から引用したもので、三島由紀夫の『文章読本』で激賞されている文なんだ」 「そうかそうか、さすがに名文だね。短いけど、すごい。なんというか、こう、気品が漂ってくるのよね」、「やっぱりね。違いますよ。短…

「うつる」でも「映る」でもなく「写る」

ガラスになぞる 写、射、斜、車、シャ、射る、入る Sにとって極端な場合には相手は物(比喩)でもいい なぞる、なする、さする、なでる 文章を読んで覚えるむずむず感 ガラスになぞる 透明ではなく透明感のある文体として、川端康成作『雪国』の冒頭近くの…

透明な言葉、透明な文章

やはり、ガラスはそのものを見るためではなく、向こうや彼方を見るものだと痛感します。それどころか、ひょっとすると別世界や異世界を見るためのものではないでしょうか。 考えれば考えるほど、言葉に似ています。言葉は目の前にあってそれが見えないときに…

意味のある影、意味のない影

影も陰も姿も像も反射も、すべてがかげと呼ばれていることに気づきます。 (拙文「「気づく」は「遅れる」と同時に起こっているのかもしれません。」より) 影をうつす、影がうつる 一対一に対応する目映い影 言葉という影が、影という言葉に 正確に、細かく…

雨に濡れながら、あなたを待つ

雨、濡れる、待つ。 この三つが出てくる歌はとても多い気がします。私は音楽には疎いので、数えたことも調べたこともありません。そんな気がするだけです。 そういえば、初めて買ったレコードが雨の出てくる曲でした。これは待つ歌ではありませんけど。 私が…

「AとB」での主役は「と」なのです

「AとB」と書いてあると、AとBのあいだに何らかの関係を見てしまいます。さもなければ、「と」で結ばれているはずがない気がするからでしょう。 ロミオとジュリエット、ピンクとグレー、『男と女』(Un homme et une femme)、女と男、Ebony and Ivory、…

反意語の同意語は同意語ではないか

「SとM」と書くと両者のあいだに反対の関係を見ることが多いように、「AとB」というぐあいに「と」でつながれたもの同士を反意語や対立関係にあるとみなすのが一種の紋切り型になっている気がします。 「と」をめぐっての、この辺の話は、蓮實重彦先生経…

敬体小説を求めて

敬体と常体 『日の名残り』 『わたしを離さないで』 『痴人の愛』 敬体で書かれた小説についてのメモ 敬体と常体 あれは「です・ます調」で書かれていた、とはっきり記憶している小説があります。童話や昔話を除いての話です。どんな文体だったかを覚えてい…

影に先立つ【引用の織物】

ガラスの内には典雅なニス塗りの、棺が飾られて、これも朝日を浴びていた。店の奥にはさらにいくつかの棺が、すこしずつ意匠を異にするようで、壁や椅子にやすらかに立てかけられ、楽器のようにも見えた。(古井由吉作「物に立たれて」(『仮往生伝試文』所…

土地の名をうたう(英語編)

San Francisco California San Jose Massachusetts Manchester & Liverpool Scarborough America home、country home San Francisco 曲にしやすい地名があるような気がします。発音しただけで、器用な人ならメロディーをつくってしまうくらい語呂がいいので…

「この詩は、まちがっています」

間違っていますか? 種明かし 敬体、常体、口語体、文語体 谷崎潤一郎作『痴人の愛』、江戸川乱歩作『鏡地獄』 間違っていますか? 灰谷健次郎の小説に『日曜日の反逆』という短編があります。 国道で「ヒッチハイクの合図」をしていた少年を、男は車で目的…

ガラスをめぐる連想と思い出

簡単に言うと、「Aだから、Bだから、Cだから、Dだから……」という論理っぽいつながりではなく、また「Aして、次にBして、それでもってCして、それからDして……」という物語っぽい流れでもなく、「Aといえば、Bといえば、Cといえば、Dといえば……」…

人に動物を感じるとき

動物、生物、宇宙人 知覚、五感、距離 痛みを推しはかる 身びいき、擬人 作意、作為 意識的な擬人、無意識の擬人、深層的な擬人 鏡の中の話だと意識する、意識しない ひと休み 恥ずかしさ プライベートな行為、プライベートな仕草 においを嗅ぐ、鏡を覗きこ…

【小話】ごみは名詞に似ている

自然界には名詞に相当するものがありません。これを実感するためには「ごみ」という名詞について考えるといいと思います。ごみは人工物だという考え方がありますが、名詞も人工物にほかならないからです。 朝配達されたものは新聞、読み終わると新聞紙。新聞…

【エッセイ】ごみと意味は似ている

ごみは人工物 出す、残す 逸脱と無駄 ごみと意味は似ている 新聞、新聞紙、古新聞 何と呼ばれるかは時と場合と人による 名詞の本質 意味とごみは似ている 何に貼っているのか分からない ごみ学 ごみは人工物 ごみとは人工物であり、ごみは人にとってごみとし…

【夜話】同床異夢、異床同夢

寝入るとき、人はとつぜん一人になります。二人で抱きあって寝ていたとしても、眠りに入った瞬間に二人は別れます。どんなに愛し合っていても、二人いっしょに眠りの中にいることはできません。 お墓とはちがうのです。そんなの、嫌ですか? 悲しいですか? …