「AとB」と書いてあると、AとBのあいだに何らかの関係を見てしまいます。さもなければ、「と」で結ばれているはずがない気がするからでしょう。
ロミオとジュリエット、ピンクとグレー、『男と女』(Un homme et une femme)、女と男、Ebony and Ivory、存在と無、存在と時間、ハリー・ポッターと賢者の石、蜜蜂と遠雷、北風と太陽、点と線、美女と野獣、老人と海、スクラップ・アンド・ビルド、トムとジェリー
どこかで見聞きしたペアだと、そのペアが何であったかで決まる気がしますが、それでも分からない気がする場合もあります。「存在と時間、点と線って、どういう関係かな?」と考えこむ人もいそうです。
私とあなた、猫と犬、山と川、かわいいとうつくしい、砂糖と胡椒、火曜と金曜、歌うと読む、ペンとスマホ、数学と書道、アメリカと平安時代、鍵と砂時計、青と化石、寝台の上の蝙蝠傘と谷間の百合、ジル・ドゥルーズと蓮實重彦
何だかなぞなぞみたいにも、ほのめかしや詩のようにも感じられるものがあります。意味深というやつです。シュールなギャグに感じられるフレーズもありますね。
ところで、思わせぶりな「と」には気をつけましょう。何の関係性も示していない「と」がときどきあります。詩や哲学にありそうな気がします。どちらにも疎いのでよくは知らないのですけど。
とにかく、うさんくさいのです。私の書く文にも、この種の「と」がたくさん出てきます。
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関係といっても漠然としていますから、具体的に見てみましょう。
まず反対のようなペアです。
大と小・マクロとミクロ・無限と有限・絶対と相対・SとM・もうとまだ・多いと少ない・ポジティブとネガティブ・白と黒・裏と表
次に、動きや状態に注目しましょう。AとBがどうなのかという話です。
引き寄せ合う・反発し合う・シンクロする・矛盾する・くっ付いたり離れたりする・まじり合う
似ている・同じである・異なっている・結ばれている・からみ合っている・重なる・仲がいい・入れ子構造・表裏一体
ずばり「○○関係」だと分かりやすいかもしれません。
相関関係・因果関係・三角関係・ねじれた関係・あやしい関係・くさい関係・不倫関係・主従関係・親戚関係・競合関係・無関係
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いろいろなAとBの関係が考えられますね。こうした関係は固定していなくて、流動的である場合も想像できます。例を挙げましょう。
彼女と彼は、十年前は夫婦だっただけれど、いまは雇い主とアルバイトの関係で、友達同士でもあり、きのうは不倫関係、きょうはきわめて険悪な関係、現時点では重なりあっている、なんてありえますよね。
思うのですが、「AとB」では、AとBは刺身のつまで、「と」こそが主役ではないでしょうか。
ロミオとジュリエット、ピンクとグレー、『男と女』(Un homme et une femme)、女と男、Ebony and Ivory、存在と無、存在と時間、ハリー・ポッターと賢者の石、蜜蜂と遠雷、北風と太陽、点と線、美女と野獣、老人と海、スクラップ・アンド・ビルド、トムとジェリー
たとえば、上のペアでは「と」で結ばれている両者がどんな関係であるかが問題であって、両者は別の両者でもいいわけです。
試しに「ロミオとジェリー」としてみましょう。「ロミオとジュリエット」や「トムとジェリー」とは別の関係が生じました。「ジュリエットとトム」でも同じことが起きるでしょう。
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「と」ってすごいじゃないですか。「と」自体には意味や内容はないようでいて、二つの言葉を「つなぐ」という働きがあるのです。
「AとB」と書かれれば「と」は刺身のつまみたいに見えます。でも、この「つなぐ」という働きはほかの言葉にはない気がします。
「と」というごく短い言葉によって、関係性が立ちあらわれるのです。これを奇跡と言わずに何と言えばいいのでしょう。言葉が魔法に感じられます。
「と」は助詞と呼ばれてもいますね。助手とかアシスタントみたいじゃないですか。大きな働きをしているのにかわいそうだと思います。
声を大にして言いたいです。
「AとB」での主役は「と」なのです、と。