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 集団としての人が事物と現象を対象にするためには、それらについて書かれた文字を対象にするしか現実的な方法はない。現にそうなっている。

 言葉は発した瞬間に消えていくから、消さないかぎり残る文字を相手にするのが最も便利である。文字と文字列は、残っているかぎりは、書いた後もみんなで眺めることができる。俯瞰ができるし、直線状に並べられた文字を前後、左右、上下、斜めに自在に眺めることができる。考え事をしながら、いつでもその文字列に戻ることができる。文字は直線状に並んでいるが、絵であり模様なのだ。

 大切なことはみんなで眺める対象であることだ。とはいえ、みんなで一斉に同時に同じ文字や文字列を眺める必要はない。また音読してもいいし、しなくてもいい。誰もが好きな時に好きなだけ眺められる。眺めたくなければ目をつむればいい。しかも、文字や文字列は持ち運びもできるし、うつすことも、増やすこともできる。

 書くは掻く。文字は痕跡。文字は残る。

 書くは描く。文字は絵であり模様。好きな部分を自由に眺められる。

 書くは欠く。文字は文字「ではある」が、文字が指し示す文字「ではない」ものとしても「ある」。

 文字をうつす。文字は移すことができるし、写すことができるし、映すことができるし、おそらく遷すことができる。

 文字が「文字ではないものの代り」としてあることを、常に意識したり、そのことに敏感でありつづけることは難しい。そうする必要はないし、そうしてはいけないのかもしれない。何にもまして、そうすることを人は好まない。文字は文字ではないものの振りを装い演じる。